大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和42年(ワ)1103号 判決 1968年9月28日

被告 協和銀行

理由

一  原告主張の請求原因事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、被告主張の抗弁について判断する。

訴外下山直を債権者、訴外株式会社精弘社を債務者、被告を第三債務者とし、当裁判所昭和四二年(ル)第一、〇六六号、同年(ヲ)第一、二三三号をもつて預託金返還請求権の差押並びに転付命令がなされ、右決定正本が昭和四二年三月一四日被告に送達されたこと、被告が同年七月一日右命令にもとづき、訴外下山直に対し、本件預託金四六万五、〇〇〇円を支払つたこと、および、右下山のための債権差押並びに転付命令における預託金の目的たる手形の記載が本件預託金の目的たる手形の記載と振出日および支払場所において被告主張のとおり異なつていることは、いずれも当事者間に争いがない。

金銭債権の差押命令は、第三債務者に対し債務者に支払をすることを禁じ、債務者に対しその債権処分の、取立をしてはならないことを命ずる効力を生じまた転付命令は、被差押債権を支払に換え券面額にて債権者に転付する効力を生ずるものであるから、金銭債権差押並びに転付命令は、その差押債権を債務者の第三債務者に対する他の債権と区別できる程度に当事者の表示、債権の種類、その数額、発生原因等を特定しなければならないけれども(然らざれば債務者並びに第三債務者はいかなる債権が差押並びに転付されたか知るに由ないからである。)他の債権と区別できる程度に特定されているときは、その効力を妨げられないものといわなければならない。

ところで、被告が主張する訴外下山直のための債権差押並びに転付命令における被差押債権たる預託金の目的とする手形の記載が、振出日および支払場所の二点において、本件預託金の目的とする手形の記載と異なつているほか、右命令における債務者、第三債務者、債権の種類としていわゆる異議申立提供金その金額は本件預託金返還請求権のそれと同一であり、また預託の目的たる不渡処分を免れんとする約束手形も、額面金額、満期、支払地、振出地、振出人の記載において本件預託金の目的たる約束手形のそれと同一であることは、前記のとおり当事者間に争いがなく、この事実と、訴外株式会社が本件預託金とは別個に、第三債務者たる被告(雷門支店)に対し、手形の不渡処分を免れるため訴外社団法人東京銀行協会に提供する目的でいわゆる異議申立提供金を預託したとか、あるいは、被告雷門支店以外に被告浅草雷門支店が存在すると認めるにたる証拠もないこととを合わせ考えると、被告主張の債権差押並びに転付命令は、前記手形の振出日、支払場所の記載において本件預託金のそれと異なつているけれども、本件預託金返還請求権についてなされたものと解するのが相当である。

そうすると、被告主張の債権差押並びに転付命令における差押並びに転付債権と本件預託金返還請求権の同一性が認められる以上、被告が右命令にもとづき、本件預託金四六万五、〇〇〇円を転付債権者たる訴外下山直に支払つたことは、前記のとおり当事者間に争いがないから、原告が本件差押並びに転付命令によつて取得した本件預託金は、差押が有効になされたと認められる当時は既に消滅し不存在であるといわなければならない。

三  よつて、原告の本訴請求は失当であるから棄却

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例